神戸地方裁判所 平成2年(ワ)690号 判決 1991年10月30日
原告
東畑智
被告
吉藤竹松
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金六一一万六一〇四円及びこれに対する昭和六四年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告吉藤松二は、原告に対し、金二五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六四年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の、その二を被告らの、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
以下、「被告吉藤竹松」を「被告竹松」と、「被告吉藤松二」を「被告松二」と略称する。
第一請求
一 被告らは、原告に対し、各自金九五六万七三二五円及びこれに対する昭和六四年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告松二は、原告に対し、金一八三万五三〇〇円及びこれに対する昭和六四年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、普通乗用自動車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、右衝突により傷害を受け自車が破損したとして、相手普通乗用自動車の保有者に対し自賠法三条に基づき、右車両の運転者に対し民法七〇九条に基づき、それぞれに損害の賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
1 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。
2 被告らの本件責任原因(被告竹松が本件事故当時被告車の保有者であつた事実、被告松二がセンターラインオーバーの過失により右事故を惹起した事実。)の存在。
3 原告の本件受傷内容(外傷性硬膜外・硬膜下血腫、頭蓋骨骨折、前額部挫創。)及び同人が兵庫医大に昭和六四年一月一日から平成元年一月二三日まで(二三日間)、平成元年五月二三日から同年六月二日まで(一一日間)入院し治療を受けた事実。
4 原告は、右事故後、自賠責保険金金二五〇万円(顔面醜状痕に対する補償)及び被告らから金一三五万円(休業損害補償名義)を受領した事実。
二 争点
1 原告の本件受傷の治療経過(ただし、通院治療。)。
2 原告の本件損害の具体的内容。
(ただし、右損害中、人的損害は被告ら双方に対する関係で、物的損害は被告松二に対する関係。)
3 過失相殺
原告の本件事故当時におけるシートベルト不着用。
4 弁済(ただし、前記争いのない原告受領金を除く。)
(一) 自賠責保険関係 治療費 金二六万四八〇〇円
(平成元年一月二四日支払い)
(二) 被告ら関係 治療費 金一〇万円
(ただし、概算。)
第三争点に対する判断
一 原告の本件受傷の治療経過
証拠(甲三、四、四六、六二、原告本人。)によれば、原告は、平成元年一月二四日から平成二年四月三日まで(ただし、当事者間に争いのない平成元年五月二三日から同年六月二日までの入院期間を除く。)兵庫医科大学病院へ通院(実治療日数三七日)し、平成二年四月三日症状固定したことが認められる。
二 原告の本件損害の具体的内容
1 人的損害
(一) 治療費 金三九万二四三〇円
証拠(甲五ないし四一)によれば、原告が本件受傷治療のために要した治療費の合計額は、金三九万二四三〇円であることが認められる。
(二) 入院雑費 金四万〇八〇〇円
原告の本件入院期間が三四日であることは、当事者間に争いがない。
本件損害としての入院雑費は、右入院期間中一日当たり金一二〇〇円の割合による合計金四万〇八〇〇円と認める。
(三) 交通費 金一九万九〇五〇円
原告の本件通院治療における実治療日数が三七日であることは、前記認定のとおりである。
証拠(四五、五九の一の一、二五九の二ないし一七、五九の一八の一、二、五九の一九、二〇、原告本人、弁論の全趣旨。)によれば、原告の本件通院期間中平成元年四月末日までタクシーによる通院を必要とするというのが医師の意見であつたこと、原告が通院を開始した平成元年一月二四日から同年四月末日までのタクシー代金(ただし、本件通院費には、原告が、平成元年一月二三日、同年五月二三日、同年六月二日の各入退院時に要した分も含む。)の合計額は、金一三万二五五〇円であること、同年六月二日から平成二年二月一日までの合計一九回分の通院費については、公共交通機関の利用費として一日当たり金三五〇〇円をもつて足りることが認められる。
右認定各事実を総合すると、本件損害としての交通費は、合計金一九万五九〇五円となる。
(四) 衣服代 金一三万円
証拠(原告本人)によれば、原告は、本件事故により、セーター・スポーツシヤツ・ジーパン・コートを損傷されたことが認められるところ、本件損害としての右衣服類損傷額は、金一三万円と認めるのが相当である。
原告は、本訴において、右認定金額を超える金二〇万円を主張請求している。
しかし、右認定金額を超過する部分は、特別損害というべく、右超過部分につき被告らに損害賠償責任を認めるためには別に一定の事由の主張・立証を要するところ、本訴においては、右一定の事由の主張・立証がない。
(五) 眼鏡代
原告は、同人において本件事故により視力減退を来たしそれによる眼鏡購入費用金三万四八八五円を本件損害として主張請求しているが、原告の右視力減退については後記後遺障害に関する認定説示のとおりであるから、原告の右主張にかかる眼鏡代を本訴損害と認めることはできない。
(六) 休業損害 金二八九万円
(1) 原告の本件治療期間が昭和六四年一月一日から平成二年四月三日までであることは、前記認定のとおりである。
(2) 証拠(乙一二、一三、証人大塚。)によれば、原告は、本件事故当時、同人の義父である大塚長光が経営する株式会社大宏(不動産仲介・宅地造成・用地買収等を目的とする株式会社。)に昭和六三年一月から勤務し、調査関係・大塚長光の訪問先への自動車運転・資料の配達等の雑用に従事して、一か月金一五万円の給与を得ていたこと、ただ、大塚長光は、原告に将来宅地建物取引主任の資格を取らせ後継者として育成するつもりであり、原告もその見習いとして勤務していたこと、右事情に、原告が大塚長光ら家族と同居し食費も負担することなく自分用車両も与えられていたことも加わつて、原告の右給与は、同人が自由に使える小遣い程度とされていたこと、右会社で一人前の営業社員になるには最低三年を要すること、右会社の営業社員に対する給与は、固定給一か月金三〇万円、契約成立による利益の一〇〇分の一が歩合給として付加されること、右営業社員らの収入は、一か月金四〇万円から金四五万円であることが認められる。
(3) 証拠(甲四五、六一、証人大塚、原告本人。)によれば、原告は、平成元年八月から前記会社の業務に復帰し同年一〇月中旬頃まで勤務したが、頭痛・めまい等で体調が思わしくなく勤務に耐えられず、以後同年一二月末日まで就労しなかつたこと、同人就労しなかつた期間、同人には収入が全くなかつたこと、同人は、平成二年一月から中古自動車販売業務に就き現在に至つていることが認められる。
(4)(a) 右認定各事実に基づくと、原告の本件休業損害算定のための基礎収入は、一か月金三〇万円(前記会社の固定給相当)、休業期間は、平成元年一月一日から同年七月三一日まで、同年一〇月一六日から同年一二月三一日までの合計二八九日と認めるのが相当である。
(b) 右認定各資料に基づき、原告の本件休業損害を算定すると、金二八九万円となる。
(30万円÷30)×289=289万円
なお、原告が本件事故当時行つていたと主張する、フリーのモデル収入については、後記本件後遺障害による逸失利益に関する認定説示のとおりである。
(七) 後遺障害による逸失利益 金四〇〇万四二八〇円
(1) 原告の本件受傷の具体的内容、入院期間は、当事者間に争いがなく、通院期間、右受傷が平成二年四月三日症状固定したことは、前記認定のとおりである。
(2) 証拠(甲六一、六二、乙一〇、証人大塚、原告本人。)によると、原告は、本件症状固定当時、二七才(昭和三八年四月一七日生)の男子であつたが、同人には、右症状固定後現在まで、頭痛・めまい・頸部痛が残存し、急性硬膜外血腫のためてんかん発作を起こす可能性があること、そのため、原告は前記会社の業務に復帰してこれをやり通すことができず、現在友人の中古自動車販売業を手伝つていること、原告の現在の収入は、右自動車一台売買して幾らかの歩合をもらうため、一定していないこと、原告が従事している右業務にも、同人の右頭痛・めまい等が影響することが認められる。
(3) 右認定各事実に基づくと、
原告には、同人の労働能力を喪失させる本件後遺障害が残存し、そのため、同人が現在経済的損失、即ち実損を被つているというべきであり、右労働能力の喪失率は、右認定各事実を主とし、これに所謂労働能力喪失率表を参酌して一四パーセントと認めるのが相当である。
しかして、右労働能力喪失期間は、原告自身の主張にしたがい本件症状固定時から一〇年と認める。
又、原告の本件後遺障害による逸失利益算定の基礎収入は、一か月金三〇万円と認めるのが相当である。
なお、原告の本件後遺障害に関する主張について、付加判断する。
(a) 原告は、同人において本件事故当時フリーのモデルとして稼働していたところ右事故により顔面醜状の後遺障害が残存するに至り右モデルとして稼働できなくなつた故、右後遺障害内容も、同人の本件逸失利益算定の基礎とすべきである旨主張している。
確かに証拠(甲四六、五八、原告本人。)によれば、原告が本件事故当時フリーのモデルを行つていたこと、同人に本件後遺障害として前額部に長さ一〇ミリメートル・一〇ミリメートル・七五ミリメートル等の醜状痕の残存が認められる。
しかしながら、証拠(証人大塚、弁論の全趣旨)によると、原告の右モデル業なるものは、必ずしも正規の職業として認め得るものでなかつたこと、即ち原告が遊興的に行つていたことが認められるから、原告が右後遺障害の残存によつて同人が右モデルとなり得なくなつても、それによつて失つた収入を本件逸失利益算定の基礎収入に関し考慮することはできない。
よつて、原告の右主張は、理由がなく採用できない。
(b) 原告は、同人の眼精疲労・視力低下をも本件後遺障害と主張している。
右主張にかかる眼精疲労・視力低下の存在については、証拠(甲四、原告本人。)によれば、これを否定できない。
しかしながら、右眼精疲労・視力低下と本件事故間の相当因果関係の存在を認め得るに足りる的確な客観的証拠がない。
よつて、原告の右主張も、理由がなく採用できない。
(4) 右認定の各資料に基づき、原告の本件後遺障害による逸失利益の原価額を、ホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金四〇〇万四二八〇円となる。(新ホフマン係数は、七・九四五。)
〔(30万円×12)×0.14×7.945〕=400万4280円
(八) 慰謝料 金三二〇万円
前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告の本件慰謝料は、金三二〇万円と認めるのが相当である。
(九) 原告の本件人的損害の合計額 金一〇八五万六五六〇円
2 物的損害 金二三万円
(一)(1) 証拠(甲四九ないし五一、原告本人。)によれば、原告は、本件事故前の昭和六三年一一月、原告車を、友人八木から代金金一三〇万円で買受けたこと、右車両は、所謂改造車で、八木は、同年初めに業者に依頼して右車両の改造をして代金約金一三八万五三〇〇円を支払つたこと、八木と原告とは、右車両が右期間使用されていることを考慮して代金金一三〇万円で売買したこと、右車両においては、バケツトシートロールバー等その他内装・機関系統が改造されていたこと、右車両は、右事故により修理不能な状態に破損されたこと、そこで、原告は、右車両を右事故後廃車にしたこと、原告が、右事故後、八木に対し、右代金金一三〇万円を支払つたことが認められる。
(2) 一方、証拠(甲四九、六〇、乙一一、一四の一ないし三、一五、原告本人。)によれば、原告車は、前記改造によつて、所謂車検に合格しないこと、右車両は、所謂サーキツトレース場内を除き、公道上を運行走行してはならない車両であること(道路交通法六二条)、所謂改造車の価格は、改造の程度により一定せず、又、右改造車の価格は、その車種によつて客観的に定まるものでなく、特定範囲の所謂フアン層の人気によつて定まるものであること、原告車の車種はサニー三一〇クーペであるところ、右車両の本件事故当時の非改造状態における交換価格は、金二三万円であつたことが認められる。
(二) 原告車の本件損害額は本件事故当時の交換価格によるべきところ、右認定各事実を総合すれば、右車両の右損害額は、金二三万円と認めるのが相当である。
蓋し、原告が本訴において主張請求する右車両の損害金一八三万五三〇〇円中、右認定にかかる金二三万円を超える部分は、所謂特別損害に該当し、右特別損害につき被告松二に損害賠償責任を認めるためには別に一定の事由の主張・立証を要するところ、本訴においては、右一定の事由の主張・立証がないからである。
三 過失相殺
1(一) 証拠(原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、原告車のシートベルトを着用していなかつたことが認められる。
(二) 車両運転者には、車両運転中シートベルトの着用が義務付けられている(道路交通法七一条の二)ところ、原告の本件シートベルト不着用が同人の本件人的損害の結果を重からしめたと推認され、したがつて、原告の方にも、同人の本件人的損害拡大防止の点につき不注意があつたと認めるのが相当である。
2(一) 右認定説示に基づくと、原告の右シートベルト不着用の不注意は、同人の本件人的損害額算定につき斟酌するのが相当であるところ、右斟酌する原告の過失割合は、前記認定にかかる全事実関係から、全体に対して一〇パーセントと認めるのが相当である。
(二) そこで、前記認定にかかる原告の被告らに対する損害額(ただし、人的損害。)合計金一〇八五万六五六〇円を、右過失割合で所謂過失相殺すると、その後において、原告が被告らに対して請求し得る右損害額は、金九七七万〇九〇四円となる。
四 損害の填補
1(一) 原告が本件事故後同人の人的損害に関して合計金三八五万円を受領したことは、当事者間に争いがない。
(二) 証拠(乙一、四。)によれば、原告は、本件事故後、右当事者間に争いのない受領金のほかに、治療費金三六万四八〇〇円の支払いを受けていることが認められる。
2 右当事者間に争いのない事実及び右認定事実に基づけば原告の右受領金合計金四二一万四八〇〇円は、同人の右損害に対する填補として、同人の右損害金九七七万〇九〇四円から控除されるべきである。
しかして、右控除後における原告の右損害は、金五五五万六一〇四円となる。
五 弁護士費用 金五八万五〇〇〇円
前記認定の全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、合計金五八万五〇〇〇円(人的損害関係金五六万円、物的損害関係金二万五〇〇〇円。)と認めるのが相当である。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 日時 昭和六四年一月一日午前〇時五〇分頃
二 場所 兵庫県芦屋市奥山一番
三 加害(被告)車 被告松二運転の普通乗用自動車
四 被害(原告)車 原告運転の普通乗用自動車
五 事故の態様 被告車が、右事故現場において、センターオバーして走行し、原告車と正面衝突した。